2023年度の第33回宮沢賢治賞・イーハトーブ賞と、各奨励賞の受賞者が、下記のように決定しました。
賞の贈呈式は、9月22日に花巻市のなはんプラザで開催いたします。
宮沢賢治賞
岡村 民夫 様
二十余年にわたる研究成果を集大成した著書『宮沢賢治論 心象の大地へ』において、賢治のテクストの鋭い分析と地理的・歴史的な考察をもとに、〈心象〉の生成変化とその統合のダイナミズムを解き明かし、また緻密なフィールドワークも重ねて、賢治の創作活動を総合的に捉えた業績に対して。
【選考理由】
本賞の岡村民夫氏は、二十余年にわたって積み重ねた宮沢賢治研究の成果を、2020年末に『宮沢賢治論 心象の大地へ』として刊行した。同書において岡村氏は、まず賢治の初期作品について、鮮やかな読解によってモチーフの重層的な象徴関係を明らかにし、賢治のテクスト分析に新たな次元を切り拓いた。また、賢治が初期から〈心象〉として記録してきた多様な素材が、〈イーハトーブ〉という包括的な地盤の上に集積され統合され、晩年の「少年小説」へと結実していくという、巨視的な動態を示した。さらに同書終盤では、イーハトーブ地方の綿密なフィールドワークを実践し、文学的研究と地理的・伝記的研究の間の生産的交流を目指すという氏の企図を、身をもって体現している。
収録された各論考の完成度の高さと、賢治の創作活動全体を捉える壮大な視点を呈示した功績は、宮沢賢治賞にふさわしい。
宮沢賢治賞奨励賞
大内 秀明 様
著書『甦るマルクス 「晩期マルクス」とコミュニタリアニズム、そして宮澤賢治』において、賢治の作品や実践活動の基盤に新たな共同体を志向する思想を見出し、これが晩期マルクスとも通底することを指摘するとともに、現代社会の課題への対処にも寄与する可能性を示唆した業績に対して。
【選考理由】
奨励賞の大内秀明氏は、2022年に『甦るマルクス 「晩期マルクス」とコミュニタリアニズム、そして宮澤賢治』を刊行し、晩期マルクスの思想を多角的に論じているが、その後半を成す「補論 東北・土に生きるコミュニタリアン宮澤賢治」では、賢治の思想や実践について、独自の観点から考察を行っている。生前の賢治は、「産業組合青年会」、「ポラーノの広場」、「農民芸術概論綱要」などの作品や論を書く一方で、羅須地人協会の実践活動も行ったが、大内氏はこれらの基盤にある共同体思想が晩期マルクスと共通するものであることを指摘し、さらにそれは現代資本主義社会の問題やコロナ危機を乗り越える方途ともなる可能性を示唆している。
大内氏は、経済学の分野では既に多くの業績を上げているが、新たな角度からの賢治研究には今後のさらなる深化が期待されることから、宮沢賢治賞奨励賞にふさわしい。
イーハトーブ賞
中村 節也 様
福井 敬 様
CD「宮澤賢治 歌曲全集 イーハトーヴ歌曲集」において、中村節也氏は賢治の音楽に関する長年の研究成果をもとに全歌曲の巧みな編曲と詳細な曲目解説を行い、福井敬氏は卓越した表現力によって賢治の世界を歌い上げ、宮沢賢治歌曲集のスタンダードともなる演奏に結実させた功績に対して。
【選考理由】
本賞の中村節也氏は、宮沢賢治の音楽に関する長年の研究成果を、2017年に『宮沢賢治の宇宙音感─音楽と星と法華経─』として刊行した。同書において中村氏は、賢治の音楽に見られる独特の旋律やリズムについて音楽学的な分析を行う一方で、明治大正期の歌謡との比較検討も行い、賢治の歌曲のルーツについて興味深い指摘を行っている。また中村氏は、自ら編曲した賢治の歌曲全集の楽譜を2004年から数次にわたって刊行しており、一部の編曲は繰り返し改訂され、工夫が重ねられている。
2022年に発表されたCD「宮澤賢治 歌曲全集 イーハトーヴ歌曲集」は、中村節也氏の最新の編曲に基づいて、テノール歌手の福井敬氏が賢治の全歌曲を歌ったものである。福井氏の歌唱は、輝きや躍動とともに繊細さも兼ね備え、宮沢賢治の世界を真摯に表現している。
福井敬氏の豊かな表現力と、中村節也氏の巧みな編曲および行き届いた解説が相まった本CDは、賢治の歌曲への素晴らしい導きとなっており、イーハトーブ賞にふさわしい。
イーハトーブ賞奨励賞
該当なし
贈呈式について
賞贈呈式は、令和5年9月22日(金曜)午前10時より、花巻市定住交流センター(なはんプラザCOMSホール)で開催します。
贈呈式の詳細については、後日、改めてお知らせいたします。
宮沢賢治賞・イーハトーブ賞について
宮沢賢治賞・イーハトーブ賞の過去の受賞者