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宮沢賢治賞・イーハトーブ賞

宮沢賢治賞・イーハトーブ賞が決定しました

第34回宮沢賢治賞は杉浦静様に、イーハトーブ賞は伊藤卓美様に、イーハトーブ賞奨励賞はアスィエ・サベル・モガッダム様と海津研様に、それぞれ決定しました。贈呈式は、9月22日に花巻市のなはんプラザにて行われます。

 2024年度の第34回宮沢賢治賞・イーハトーブ賞と、各奨励賞の受賞者が、下記のように決定しました。
 賞の贈呈式は、9月22日に花巻市のなはんプラザで開催いたします。

宮沢賢治賞

杉浦 静 様

 宮沢賢治の詩の草稿を中心に、テクストの意味内容の変遷とその生涯における位置づけを精密に検討することによって、実証的な草稿研究と思想レベルの研究を新たな次元で統合した、著書『宮沢賢治 生成・転化する心象スケッチ』に対して。

【選考理由】
 本賞の杉浦静氏は、この30 年以上の宮沢賢治研究の成果を、著書『宮沢賢治 生成・転化する心象スケッチ』に集大成し、2023 年10 月に刊行した。
 本書の前半で杉浦氏は、「春と修羅 第二集」を中心に詩の草稿の状態とテクストの推敲過程を継時的に詳しく分析し、そこに賢治の宗教意識や社会意識、さらには世界観の変化を細かく読みとることによって、彼の生涯における思想の展開の道筋を、見事に浮き彫りにした。また、「歌稿」や「音楽用五線ノート稿」についても、草稿の実態や手入れ時期の推定をもとに独自の考察を行って、新たな仮説を提唱している。本書の後半では、賢治の作品におけるいくつかのトピックを深く掘り下げ、ここでも多くの新たな知見を示した。
 本書を貫く実証的で緻密な研究手法は、賢治が遺した厖大な草稿を分析する上で、今後の規範ともなるものであり、宮沢賢治賞にふさわしい。

宮沢賢治賞奨励賞

該当者なし

イーハトーブ賞

伊藤 卓美 様

 木版画家として長年「宮沢賢治」と「民俗芸能」をライフワークに、賢治の作品の版画を暮らしの中で使える「歌留多」や「蔵書票」という形で制作し、また各地の民俗芸能を独自に調査して、詩情あふれる作品に記録し続けてきた業績に対して。

【選考理由】
 本賞の伊藤卓美氏は、1967 年に初の個展を開いて以来、「宮沢賢治」と「民俗芸能」をライフワークとして、長年にわたり第一線で木版画を制作している。
 宮沢賢治に関しては、その作品の一場面を印象的なテクストとともに取り出し、「歌留多」や「蔵書票」という形にして、人々の日々の暮らしの中に生きる版画を制作してきた。これは、生活と芸術の一体化を目指した、賢治の理想にも通ずるものである。また、東北を中心に各地の民俗芸能を、独自に調査して制作した美しい版画作品は、伝承の貴重な記録ともなっている。最近は、「東京江戸百景」というテーマで、広重以来の浮世絵の伝統を現代に引き継ぐ創作も積み重ねている。
 以上のように、優れた木版画によって宮沢賢治の作品世界を表現し、賢治も愛した民俗芸能を記録してきた業績は、イーハトーブ賞にふさわしい。

イーハトーブ賞奨励賞

アスィエ・サベル・モガッダム 様

 宮沢賢治の作品や世界観に対する深い共感に基づいて、ペルシャ語翻訳による賢治の詩集と童話集を、いずれもイランで初めて刊行するとともに、長年にわたって日本とイランの相互理解と親善に貢献してきた功績に対して。

海津 研 様

 宮沢賢治の童話や詩を題材として、温かく細密な絵画を数多く制作し、独自のアニメーション作品にも結実させる一方で、戦争やハンセン病など社会的に意義深いテーマでの制作活動にも、積極的に取り組んできた営為に対して。

【選考理由】
 奨励賞のアスィエ・サベル・モガッダム氏は、イラン在住の日本文学研究者で、2回の日本留学の成果も踏まえて、2015 年にペルシャ語翻訳版の宮沢賢治詩集を、2018 年にはペルシャ語翻訳版の宮沢賢治童話集を、いずれもイランで初めて刊行した。サベル氏は、賢治の作品には「国境を越えて人の心から心へ伝わり、世界の人々をつなげる力がある」と評価し、またその作品世界における人間と自然との交流に、深く共感しつつ翻訳を行っている。またサベル氏は、在イラン日本大使館附属日本人学校で長らく教壇に立ち、現地在住の日本人にペルシャ語を教えることで、日本とイランの相互理解に貢献し、2023 年には日本大使館の表彰も受けている。
 このような優れた宮沢賢治作品の翻訳と、イランと日本の親善に資する功績は、イーハトーブ賞奨励賞にふさわしい。

 同じく奨励賞の海津研氏は、身近な生命や自然をテーマとして、温かく細密な絵画やイラストを多数制作しており、とりわけ宮沢賢治の童話や詩を題材とした創作に、意欲的に取り組んでいる。中でも「なめとこ山の熊」や「セロ弾きのゴーシュ」など、人間と動物が心を通わせる情景の描写は魅力的で、「よだかの星」をモチーフとしたアニメーション「よたか」も、独特の質感がある。
 一方、海津氏は沖縄のひめゆり平和祈念資料館で、「アニメ ひめゆり」の原画制作を担当し、最近の同館リニューアルの中心となる大作も制作した。2024 年には、国立ハンセン病資料館での企画展示にも参加するなど、社会的な活動にも積極的に携わっている。
 以上のような、宮沢賢治の作品に基づいた創作活動と、種々の社会的実践は、イーハトーブ賞奨励賞にふさわしい。

贈呈式について

 賞贈呈式は、令和6年9月22日(日)午前10時より、花巻市定住交流センター(なはんプラザCOMSホール)で開催します。

 贈呈式の詳細については、後日、改めてお知らせいたします。

宮沢賢治賞・イーハトーブ賞について

宮沢賢治賞・イーハトーブ賞の過去の受賞者